これは何に見えますでしょうか。チキンのピラフ? それにしては挽きぐるみの蕎麦のように黒い細々が目立ちます。これは江戸時代に巷に伝わっていた胡椒飯を少し豪華に作ったものです。江戸時代に胡椒? ですよね、私も初め、それは柚子胡椒のように唐辛子のことを指すのではないかと疑いました。
この本は江戸時代の料理書に見られる米料理を再現して解説した柴田書店の「変わりご飯」です(1986年発行)。
本誌によりますと、享和2(1802)年刊行の「名飯部類」には胡椒飯が記載されているとのことです。胡椒は飛鳥時代には薬用として伝わり、江戸時代には汁物の吸い口としてしばしば使われたそうです。いろいろ調べてみますと、宝暦14(1764)年刊行の「料理珍味集」にもやはり紹介されていて、胡椒は江戸っ子にも好まれていたことがわかります。
本来は鰹ダシで炊くか、鰹ダシをご飯にかけて食べるようですが、今日は鶏をスープと具にします。
鶏もも肉を賽の目に切っておきます。
鶏肉を2%程度の塩湯でさっと煮ます。アクや余計な脂を取り除きましょう。
もちろん煮汁はスープとして使いますので、お湯をあまり多くしますとスープが薄くなります。
研いだ米に鶏のスープを規定の分量になるよう水で調整します。塩で最終的な味加減をし、粗挽き胡椒を振り入れます。
鶏肉も加えて、後は炊くだけです。
炊き上がりましたら、具とご飯をよく混ぜます。
薬味として陳皮や大根おろしを用いる(料理珍味集)とありますが、胡椒とバッティングしそうなので、そのまま頂きます。
鶏のダシが濃厚な胡椒飯。清々しい香りとピリ辛さが堪りません。
シンプルながら贅沢な味わいの炊き込みご飯となりました。
江戸時代後期には百珍本を始め、様々な料理書が刊行されています。実用的なテキストとしてだけではなく、料理を楽しむ読み物でもあったようです。実に多種多様な料理が開発されていますが、中にはこれは洒落だろうと思えるような珍品もあったりします。文化的な爛熟期を迎え、食にも遊び心が入り始めたのでしょう。
ラーメンに胡椒の背景はこの時代に汁物の吸い口として普及していたことと関係がありそうです。ただ、うどんやそばにはなぜ胡椒が用いられてこなかったのか疑問も残ります。一旦忘れ去られた習慣がラーメンで復活したのかも知れません。今度、他の麺類にも胡椒を使ってみようと思います。
コメントの投稿