対決 カボス VS スダチ
カテゴリー: 料理:野菜・果物
薬膳料理教室の堀桃先生から大分県のカボスと徳島県のスダチを頂きました。今までそれぞれ別々に使っていましたので、同時に風味を比較することもありませんでした。折角の機会ですので、それぞれの特性をしっかり把握してみたいと思います。カボスもスダチもユズから派生した近縁種ですのでよく似ています。ちなみに上の写真の左側5個がカボスで右側の7個がスダチです。通常、市販されているサイズはカボスが直径4~5cmに対し、スダチが3.5~4cmと小さいので区別できますが、小ぶりのカボスと大きめのスダチを区別できる人はそう多くはないでしょう。
両者の形態上の相違点を探索すべく、じっくり観察します。上がカボスで下がスダチです。大きめのカボスは表面の細かなディンプルが少し広がって疎らになったように見えますが、小さなカボスでは差がありません。
決定的な違いは、かつて花のめしべが飛び出していた痕跡のある果頂部、俗にいう尻の部分ですね。カボスは中心を取り囲むように膨らんでいますが、スダチでは菊の紋章が平らに浮き出ている感じです。
果肉の色は少し、スダチの(右)方が緑色がかっていますね。
従って、果汁もスダチの方が緑色が強いです。果汁をそのまま、味わってみますと、味自体は大きな差がありませんが、香りが決定的に違います。カボスには何か金っ気臭いような独特の匂いがあります。一方、スダチは心地よい鼻を抜ける爽快な香りですね。ライムとも似ているかな。香りの差ですから、鼻を摘まんで味わえば途端に差がなくなります。
焼酎の水割りに使ってみました。香りの少ない甲類で試しました。
やはり、爽やかなのはスダチ(右)ですね。ただ、スダチは果実が小さく、果汁もあまり取れないので輪切りにしたものを何枚か入れて、皮からの香りも使った方がよいでしょう。両者の香りの差は繊細なので、揚げ物や焼き魚などに使うと特性がハッキリしなくなるかも知れません。
そこで、サンマの塩焼きで両者を試します。
ところで、サンマを焼く時には腹を裂いてはいけません。腹を割くと身の水分や旨味も抜けやすくなり、パサつきます。そのまま焼くことにより、内臓を取り巻く脂肪も身に回って、ふんわりと仕上がります。これは比較実験をしておりますので、こちらをご覧下さい。なお、内蔵を食べる食べないは嗜好の問題ですが、棒受け網で漁獲されたサンマは飲みこんだ多数の鱗が胃内に溜まっていることがあり、これが口の中で広がりますとかなり不快です。
さて、結果ですが、やはり予想通り口に入れた瞬間は香りの差を感じますが、噛んでいくうちに酸味だけしか感じられなくなります。
サンマの香りや脂の影響でスダチの爽やかな香りも感じられなくなり、どちらを使っても同じですね。
ついでに、サンマの刺身でも試してみました。
これが意外な結果となりました。刺身に垂らす場合は、スダチよりカボスの方が相性がよいのです。スダチでは爽快な香りがライムのようで、日本の刺身にはきつすぎます。南米のセビッチェでしたら、スダチでも良いかも知れませんが、日本の刺身には合いにくいように感じました。一方、カボスは柔らかい醸造酢のような感じで、酢の物のようにすんなり受け入れられます。
結果を取りまとめます。私の好みとしては以下のとおりとなります。
用途\種類 | カボス | スダチ |
---|---|---|
焼 酎 | 〇 | |
サンマ塩焼き | 〇 | 〇 |
サンマ刺身 | 〇 |
カボスとスダチ。それぞれ別々だったら、気付かなかった様々な特性が見えてきました。結論として、爽快な香りを楽しむならスダチで、脂の多い魚の塩焼きや鶏の揚げ物などに使うのであれば、どちらでも良いのですが、果汁たっぷりのカボスの方が便利ですね。ただし、繊細な味を楽しむ刺身では、スダチの爽快な香りは合わないように思えました。よくフグの刺身にはポン酢醤油が添えられますが、ポン酢の材料も柚子、橙、ユコウ、カボス、スダチなど様々な柑橘類が使われます。中には柑橘系の強い香りを持つものもありますが、醤油と合わされ寝かされるうちに尖った香りが円やかになるので、サンマより繊細なフグの味を邪魔することがないのでしょう。
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