煮凝り(にこごり)は冬場にカレイなどの煮付けの煮汁が、翌日にゼラチンの作用で固まったものを指しますが、これがあまりに美味しいので、冬以外でも作っています。魚だけではなく、鶏手羽の煮凝りが絶品です。炊き立てのご飯に乗せるとみるみる溶けて、濃厚な旨味がご飯に染み込みます。完全に溶けてしまう前に口に放り込みますと、冷たくちゅるりとした煮凝りと暖かいご飯との対比がえも言われぬ美味しさなのです。
なぜ鶏手羽かと言いますと、ゼラチンの素となる皮や筋が多いのと、骨を一緒に煮込みますので美味しいだしが取れるからです。
300ml位の煮凝りを作るのに鶏手羽が5本くらい使います。多いように思えますが、途中で骨を取り去りますと意外とがさが減ります。
手羽以外の材料は基本的には醤油と味醂と生姜です。
ただ、真夏の茹だるような暑さの中で食べる関係上、この季節は少しさっぱり感と刺激を加えます。さっぱり感は梅干しで、刺激は実山椒の煮汁を使います。山椒は痺れる刺激を意味する麻が特徴です。花椒をたっぷり使う本場四川の麻婆豆腐も麻と辣の組み合わせが美味しさの秘訣です。分量は梅干し1個、実山椒の煮汁大さじ半分くらいです。もちろん、梅干しや実山椒を入れなくても美味しい煮凝りは作れます。
今回は300ml分の煮凝りを作りますので、最初に水300mlに醤油、味醂、実山椒の煮汁で程好い味に調製し、これを倍の水で薄めてから火にかけます。梅干しからも塩分が入りますので加減しましょう。
煮汁が沸騰する手前ですべての材料を投入します。蓋をしないで水分を飛ばしながらコトコト弱火で煮込んでいきます。
40分ほど煮込みますと、手羽に箸がスッと入るようになります。
この間、アクや脂をすくい取ります。脂は取り切れなくても後に効率的に取れますのであまり気にしないで下さい。
すっかり煮込まれて柔らかくなった手羽を取り出し、骨を抜いて肉だけを集めます。
これだけで酒が呑めるなという感情を押し殺して、次に進みます。^^
集めた肉を濾した煮汁に戻します。生姜や梅干しも取り除きます。
適当な固め容器に流し入れ、室温になるまで冷まします。これを冷蔵庫で冷やば煮凝りになるのですが、夏場は室温でどんどん溶けてしまします。それはそれで美味しいのですが、形をもう少し維持したい場合は、煮汁が冷めないうちに粉末ゼラチン3gを水でふやかしてから溶き込みます。今回は撮影に多少時間がかかるので室温でも溶けないように粉ゼラチンを使っています。
冷蔵庫できっちり冷やした煮汁は完璧な煮凝りとなってます。
煮凝りの表面に脂が白く固まりますので、クッキングペーパーなどで拭き取ります。
まずは適宜に切って溶き芥子で頂きます。
鶏の旨味が凝縮したこの逸品には、日本酒、焼酎、ワイン、ウイスキー等、どのような酒種にも合ってしまう威力があります。暑い日の夕餉に、これを一口、そして溶ける前に酒で流し込む。もう、極楽以外の何物でもありません。
このような食べ方も好いですよ。サラダに乗せた鶏の煮凝り。よく混ぜて頂きましょう。
最近、このようなゲル化調味料にフランス語のジュレと称して商品化しているものがありますが、日本には伝統的な煮凝りがあるのです。これにレモン汁でも垂らせば、さらにさっぱりと頂けますよ。
でもね、やはり、煮凝りとの最高のマリアージュはご飯なんですね。
旨味たっぷりの煮凝りがご飯に染み込んでいこうとする出鼻を挫いて、ワシワシと掻き込みます。生きてて良かったを感じる瞬間です。
夏の常温ではテーブルで5分もしないうちに溶けてしまう煮凝りですが、その儚さも美味しさの一因です。粉末ゼラチンで強化して切り口が凛とした煮凝りも夏には見栄えが良いのですが、ズルズルでもご飯とすぐに馴染む煮凝りが日本人本来のソウルフードだったはずです。食欲の落ち気味な残暑の朝食も煮凝りがあれば、効率的にエネルギーの補給ができますよ。私も時々、週末自宅で作って、気仙沼の部屋にせっせと運んでおります。
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