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塩カツオをさらに美味しく

カテゴリー: 料理:買い魚

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 この人物は水産庁加工流通課情報技術企画官の上田勝彦氏です。どう見ても官僚ではなく、漁師か魚屋の風貌ですよね。^^ そうです。彼こそが今話題の魚食伝道師ウエカツさんなのです。実際、水産庁に入庁する前には漁師経験もあるそうです。先日、気仙沼で開催された第12回「食」と「漁」を考える地域シンポにおきまして、彼流の魚食普及論を元気に訴えておられました。その中でちょっと気になる一説があったので、私の探求心がムクムクと。。。^^



 「現代人は刺身、特に生臭いカツオが苦手という人が多い。」
 「確かに灰色になったカツオは尚更だが、塩カツオにすれば美味しくなる。」
 「塩カツオは四半身にたっぷり塩を塗して少し置き、水で洗い流せば出来上がり。」



 まるで三段論法みたいですが、肝心なのは塩カツオの作り方。これでは単なる塩洗いではないですか。本来、塩カツオは保存食です。常温でも保存できるくらいの塩漬けで、昔の塩が吹き出す新巻鮭のような物でした。現在も市販されているのかわかりませんが、私が小さい時は東京でも見かけました。やたら塩辛く、子供ながらも美味しいとは感じられませんでした。


 百歩譲って、漁船員が船の中で作る即席塩カツオでも四半身に塩を塗して数日置き、塩辛いので薄く切ってで食べています。塩でがっつり締めて生の刺身とは異なる食品になっているのです。ですから、塩を塗してサッと洗ったものを塩カツオと呼ぶところが腑に落ちないのです。でも世間ではこれを塩カツオと呼んでいるのかと思い、ググってみますと。。。。


 なんとNHKのあさイチという番組(2012年5月23日放送)で、塩カツオを紹介していました。気になるその作り方は、、、



 ① 切り身を流水でさっと洗い、ふきとっておく。これだけで生臭みが軽減されます。
 ② 粗塩をまんべんなく振りかけて、そのまま10分ほどおく。切り身から水がしみ出てきます。 この時ににおいの成分も一緒に出て行きます。
 ③ 塩を水で洗い流して、水分をふきとれば出来上がり。


   ※このまま刺身で頂いてもおいしく食べられますが、いろんな料理の材料としても使えます。



 というもの。まるでウエカツさんと同じじゃありませんか。それもそのはず、この番組のゲストとしてウエカツさんが出演し、塩カツオの作り方を解説していたのでした。これには大笑い。要するに塩カツオとは呼んでいますが、生臭みを取るための作業であることがわかります。これでは本物の塩カツオが不憫です。


 でも、わかりやすいネーミングで魚臭さを取り除き、魚離れを抑制しようというコンセプトは賛同できますね。ただ、塩カツオですと出されて、明らかな刺身との違いを感じることが出来なければ、塩カツオと名乗るのは邪道でしょう。そこでサエモン流塩カツオをご紹介しましょう。塩分の摂り過ぎには注意しなければならないお年頃ですので、昔のような塩カツオではなく、ライトな即席塩カツオです。




 またまた、序論が長くなりましたが、サエモン流塩カツオの作り方をご紹介します。用意するのは刺身用のカツオの四半身です。
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 小振りですが、うっすらと脂が乗って美味しそうです。敢えて灰色になったカツオを選ばなくても結構です。^^




 ウエカツ流との比較をしたいので、半分に切ります。
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 同じ四半身でも前方と後方では脂の乗りや食感が異なりますので、切り口近くの身で食べ比べます。


 

 
 まずはウエカツ流。塩をたっぷり塗し、10分置いてから浄化水で洗い流します。
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 どちらの作り方でも塩は味を左右しますので、天日干しの自然塩を使います。ラップに包んで冷蔵庫で少し寝かせます。たぶん、こうすることで表面近くの塩分が身に馴染むように思ったからです。




 一方、サエモン流ですが、塩を塗して3時間置きますので、少し控え目にします。〆鯖の作り方でもご紹介している紙〆法を併用するのが私の意匠。
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 紙はキッチンペーパーを使用し5枚ほどできっちり包みます。これを冷蔵庫に収容し、軽く重しをして3時間置きます。塩分を減らしても紙の吸水力でカバーするのです。滲み出る生臭い汁がカツオに触れないのも利点です。3時間経ったら、同じく塩を洗い流し、水分をよく拭き取っておきます。




 出来上がった塩カツオ。手前が紙〆を併用したサエモン流。後方はウエカツ流
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外見にはほとんど差が見られません。




 ところが、平造りにして箸で挟むと違いがわかります。サエモン流はやや硬くプルプルしません。
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 そうです、外見は変わりませんが、脱水率が異なりますので、グッと締まるのです。




 これらを異なる薬味で食べ比べます。薬味はおろし生姜、茗荷+青葱、練り芥子です。
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 もちろん塩カツオですから、醤油は使いません。そのまま食べるのです。それが塩カツオが普段の刺身と異なる点です。その点からすると、ウエカツ流塩味が物足りません。脱水も少ないので、食感は通常の刺身と変わりありません。

 一方、サエモン流は口に入れるともっちり感が強く、明らかに別物であることが瞬間的にわかります。個人的にはもう少し塩を多く塗して塩味を増してもいいかなと思いますが、減塩が求められていますので我慢しましょう。これであれば、即席塩カツオを名乗っても文句は言われないでしょう。なお、おろし生姜や茗荷などは相性抜群なのですが、練り芥子醤油と合わせないと良さが発揮できないように感じました。




 それで考えたのですが、即席塩カツオの食べ方として、このような香辛野菜のっけをご推奨いたします。
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 香辛野菜
は土佐造りによく用いられる青葱、大葉、茗荷、新玉葱などでよいのですが、この場合ニンニクは強すぎますので使いません。なお、生姜は絞り汁を最後に上から回しかけます。もちろん塩カツオですから、そのまま香辛野菜と一緒に食べますが、途中で漁船員風にに浸けて食べても変化があってよいですね。ただ、甘味塩味の入った市販のポン酢は味が濃くなり過ぎますので塩カツオには止めましょう。
 



 整理しますと、塩カツオの美味しさを引き出すためには、10分程度の塩塗しでは脱臭にしか過ぎず、料理としての塩カツオに仕上げるには、さらに脱水が必要です。そこで、減塩も意識して紙〆を併用するわけです。これにより、刺身と異なる食感が得られて塩カツオという料理として成り立つのです。私は鯖の刺身にもこの手法を使っています。生臭みを消すだけではなく、身を締めるためです。なお、この記事ではウエカツさんに対抗してより美味しい即席塩カツオを提案しておりますが、現代人への魚食普及には簡便性が求められますので、彼の戦略はもちろん評価しております。今回は美味究真のスタンスから即席塩カツオを捉えたものであり、目的が違うことをご理解願います。

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2012/07/03(火) 05:00 | trackback(0) | comment(10)
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