今年もまた唐墨(からすみ)を作りました。今回で何度目でしょう。過去にも二度ほど記事にしたことがありました。もちろん、ボラの卵巣はみちのくでは手に入りませんので、スズキや天然ブリの卵巣で代用しています。極上品のからすみの味は知りませんが、熟成した魚卵の味わいには変わりなく、日本酒とのマリアージュは天下一と言えましょう。
過去のからすみ作りの記事はこちらです。
唐墨(からすみ)作りに挑戦しました(ブリ卵巣)
自家製からすみの勧め(スズキ卵巣)
仙台湾のスズキの産卵は冬なので、からすみを天日干しする時に気温の心配は要らないのですが、天然ブリですとこの季節になりますので、半月以上も暖かい空気に曝して大丈夫かといつも不安になります。でも、長崎近海でボラの産卵群が漁獲され始めるのが10~11月頃ですから、この時期の長崎の気温が当地の5月の気温より高ければ問題ないわけです。
で、早速比較してみました。
長崎と仙台の年間気温を比較しました。データは気象庁のHPからダウンしました。
結果はこのグラフのとおりで、長崎の10月下旬から11月上旬は仙台の5月より暖かいのです。要らぬ心配でしたが、これで不安は解消されました。仙台湾のスズキはしばらく入手できないでしょうから、今後はこの時期に獲れる天然ブリの卵巣を原料としてからすみを作っていきます。
からすみの作り方は上記の過去記事にも詳解していますが、軽くおさらいです。まず材料の卵巣ですが、破けていないものを求めます。ちなみにこれは天然ブリの卵巣で一腹380円でした。
たぶん、煮付け用として販売されているのでしょう。1カ月近くの時間と手間のかかる作業ですので、まとめて何腹分も作っておきたいところですが、残念ながらこの1パックしか残っていませんでした。
まずは、水道水でそっと洗います。細い血管を太い方へと押しやると血が流れ出します。
商品にする場合は血抜きを完全にしますが、やり過ぎて卵巣膜に傷でも付けたら元も子もなくなります。仕上がりが血走って多少見栄えが悪いのですが、味は変わりありません。気にしないで行きましょう。
洗った卵巣にたっぷり自然塩を塗して、2~3日置きますと生臭い水が出てきますので一旦捨てます。
塩を足してさらに4~5日漬け込めば、潰れてシワシワになってきます。漬け始めから1週間ですね。
その後、水道水で半日から1日かけて塩抜きします。
塩抜きの加減はどうしても経験が要ります。私は1週間塩漬けしたら、1日塩抜きをしています。流水ではなく、時々水を換えています。以前、塩抜きの後に日本酒に漬けたりもしていましたが、今回は抜きで味を確認します。
いよいよ、乾燥作業に入りますが、これは長期戦です。雨・蠅・猫との長い闘いが始まるのです。最近は網カゴを使ってますので蠅と猫は敵ではなくなりました。^^
冷蔵庫の中だけでも紙干しを併用すれば乾燥は進むのですが、やはり太陽の力による味の熟成を信じたいですね。単身赴任なので週末は自宅で、平日は気仙沼で干し上げます。
そして雨の降りそうな日には冷蔵庫に仕舞うを繰り返します。
10日ほど経過しますと色が濃くなってきて周辺部が硬くなってきますが、まだ中心部はぶよぶよです。さらにこまめな管理を続けます。
干し続けて2週間、ギリギリで先日のダービーパーティーに間に合いました。
ベッコウ色で艶やかに干し上がれば完成です。ゴムの板くらいの硬さになればよいのです。途中、板に挟んで重しをして形を整えます。中心部分と外側とでは硬さに差がありますが、酒を塗りラップに包んで冷蔵庫でしばらく寝かせれば均一になります。
ねっとりとした食感と魚卵の熟れた味わいが素晴らしい。
血管の血走りはご愛嬌。味は少なくとも台湾やイタリアのカラスミには引けを取りません。
お披露目の当日にはこのような大皿盛になりました。
食通の皆さんにご賞味頂きましたが、悪い評価はなかったようで一安心。
からすみを自分で作るまでは、手の届かない天上の佳肴と思い込んでいましたが、手間を惜しまなければ、比較的失敗なく作れるのです。ポイントは膜の破れていない卵巣を選ぶことと塩抜きの加減、それに天候を見て太陽に当てながら干し上げることでしょうか。3週間近くかかりますので、一度に数腹分以上の卵巣で作りたいものです。その苦労が報われる口福を体験できるでしょう。一口齧ってよく噛んで、旨味と塩味が回った頃、冷や酒の追い打ちをかけると昇天するほどの感動があります。^^