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食品中の放射性物質の暫定基準値改正

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 4月1日に食品に含まれる放射性物質の基準が改正されました。2012年3月11日の記事(こちら)にも書きましたが、これは、暫定基準値と比較して実に大幅な改正となります。国民の健康を考えてのことだと思われますが、この厳しさの真意については、わからないことが多いのです。色々調べてみましたが、ますます、混沌としてしまいました。気になるところを少し書き出してみました。



 基準値を一挙に1/5~1/20に引き下げ  

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 もう一度、暫定基準値新基準値の関係を以前に作った図に少し書き加えて確認しますが、基本的な考え方は食品や飲料水由来の年間内部被曝線量を5mSvから1mSv以下に抑えるのが目的です。そして、平均的な食生活で摂取する各食品群に許容線量(Bq/Kg)を割り当てたものです。細胞分裂の盛んな乳幼児が摂取する食品や乳製品は特に厳しく設定されています。 


 地球上で生活する以上、原発事故や核実験がないとしても一定の自然放射線を浴びています。世界的な平均で年間2.4mSvで、これに上乗せされる追加被曝線量が100mSvを超えると癌発生率との関係が有意に認められるそうなのです。ですから、食品による内部被爆線量が年間1mSv以下に押さえられれば、100mSvを超えるのに100年を要することになります。ただ、追加被曝は食品の摂取による内部被曝だけではありません。福島第一原発周辺では現在でも通常の自然放射線量より明らかに高くなっていますので、一応、検証してみます。


 仙台市内の大震災以前(2009年)の空間放射線量率(時間当たりの放射線量)は0.0176~0.0513μSv/hとされていますが、現在(2012年3月)は0.05~0.1μSv/hとなっており、単純に計算して大体0.03~0.05μSv/hが自然被曝に上乗せされています。これを年間被曝線量に換算しますと最大で、 

  0.05μSv/h×24h×365day=438μSv/h=0.438mSv 


 となり、日本人の平均寿命(女性2010年)をかけると、
   
  0.438mSv×86.39歳=37.8mSv


 ですので、先ほどの食品による追加内部被曝線量の最大値、年間1mSvを86.39歳分、加えますと124.19mSvとなって超過します。しかし、以前の記事でも説明しましたように、今回、検出されている放射線の核種で問題となるのは、セシウムですが、約半分を占めているセシウム137は半減期が30年ですが、セシウム134は2年です。従いまして、数年のうちに半減する見込みです。ただ、乳幼児を特別に保護するのであれば、胎児の方がもっとデリケートなはずで、妊婦にはX線も照射しないのは常識です。後述しますが、年間1mSv以下の内部被爆でも継続すれば、決して影響がないとは言い切れないからです。


 

 しかし、この基準は何でこんなに厳しいのか?


 3.11の記事では幾つかのサイトから集めた各国の基準を日本の改正基準と比較しましたが、詳しく検証しますとヨウ素とセシウムが混同されていたり、食品の種類区分が一致しなかったりしましたので、作り替えました。今回のソースは農水省大臣官房国際部です。


 最初に飲料水放射性セシウムの基準ですが、以前のグラフとほとんど変化がなく、日本の改正基準の厳しさがよくわかります。
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 ただし、Codex(FAO及びWHOの国際機関、食品の規格を策定)のセシウムは、同位体や他の核種も含まれます。EUは輸入品に対する基準で、日本の暫定基準に合わせたようです。 




 次に水産物を含む一般食品ですが、これも日本の改正基準は国際的に見ても厳しいことに変わりありませんでした。
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 日本人の水産物の消費量が多いことも勘案してのことでしょうが、消費量は年々低下しています。最大の安全率を見てこのように厳しく基準を見直したと言うことでしょうか。それでは、なんで日本だけが・・・。


 諸外国との大きな格差を見ますと、現在、日本で起きている放射能汚染はかなり深刻で除染を行っても相当長期間、予断を許さない状況が続くのではないかと不安になります。ニュースでは食品の放射線量が下がってきて厳しい基準でもクリアーできるからと説明されていますが、キノコ類や一部の魚類では逆に増えてきています。さらに東電、原子力安全・保安院、政府の楽観的な診断や予測は国民に不安を与えないようにとの配慮でしょうが、ことごとく現実との乖離が吹き出してきて逆に不安を募らせます。



 食品と放射性物質については、消費者庁の問答集がわかりやすく、現在、流通している食品の安全性を解説しています。でも、この問答集では先月以前の暫定規制値を取り扱っており、安全ならなんで改正する必要があるのでしょうか。1年近く食べ続けてきてから、厳しく改正されたら、今までは大丈夫だったのかと疑心暗鬼になります。



 今回は単なる原発事故ではなく、大津波で東北地方の太平洋沿岸が壊滅的に被災しました。食糧供給もままならぬ事態が想定され、産業の混乱や復興への支障を懸念して非常時の暫定基準として緩めたのでしょうか。いずれにしろ、年間5mSvの追加被曝は安全と言う根拠で暫定基準が設定されていたのに、それを1mSvまでに引き下げるのですから、暫定基準は長期間使えるものではないのでしょう。上記の問答集でも『国際放射線防護委員会(ICRP)によれば、100mSv被ばくすると、癌の死亡率が0.5%程度上昇すると言われています。それ以下の弱い放射線でも浴び続ければ、まったく無害とは言い切れません。』と記載されています。やはり、年間内部被曝線量を5mSvを根拠とした暫定基準は全く安全ではなかったわけです。 




 仙台湾でも100Bq/Kgを超えるスズキやマダラが・・・

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 3月末のニュースでもやっていましたが、今まで仙台湾で普通に水揚げされていた放射性セシウムが500Bq/Kg以下の魚種のうち、時々、100Bq/Kgを超えることがあったスズキについては海域を区切って操業を自粛することになりました。同じく稀に超過することがあるマダラについても気になるところです(4/2追記;マダラも海域限定で操業自粛になりました)。


 スズキマダラ、それにヒラメは獣に例えれば、食物連鎖の頂点に位置するライオンやヒョウやチータです。セシウムはキノコ類は別として生物体内ではカリウムと同じ動きをするので、蓄積することなく体外に排泄されるとされていますが、汚染されたプランクトンや微小な生物を小型魚が食べ、それを大型魚が食べて濃縮されます。セシウムが器官や細胞内に蓄積されなくても排泄より摂取の方が多ければ、当然、体内の在庫が増えることになります。

 
 放射性セシウムの漏出が完全に止まり、陸上からの流入もなくなり、海底に堆積したものも拡散すれば、やがては生物の体から消え失せるのでしょうが、体外に排泄された放射性セシウムも朽ち果てもせず、蒸発もせず放射線を出し続けるのです。事故から一年近く経過した現在も常磐海域では500Bq/Kgを超える魚が出現する(厚生労働省報道発表資料)のはセシウムがそう簡単には海で拡散しないということでしょう。仙台湾は常磐海域と隣接しています。来るなと言っても汚染された魚もやってくることがあるでしょう。

 100Bq/Kg以上に汚染された魚は漁獲して検査してみないと判定できないのです。それに全部を検査することも出来ません。ですから、抜き打ち検査をして100Bq/Kgに近づいてきたら、その魚の漁獲を自粛しなければならないのです。万が一、100Bq/Kg以上の魚が紛れ込んで流通に乗ったり、販売されたりしたら、罰則が伴うのです。漁業者だけではなく、流通業者、加工業者、小売店や飲食店まで巻き添えになります。まったく厄介な話しです。


 それに陸上に降り積もったセシウムは、一雨ごとに川に運ばれ川底に溜まり、大雨ごとに海に流れ込むのです。陸地から見ればこれ幸いですが、海側としては流れ込む前に川底の泥を浚渫して隔離して頂きたい。川は降り積もった放射性セシウムを集めてくれる回収装置ですから、川底さらいで効率的な海の汚染防止が期待できそうですので。




 農畜産物や養殖物は管理しやすい


 農産物や牛や豚などの畜産物は人間の管理下に置かれていますので、事前に検査を実施して改正基準値である100Bq/Kg未満であれば出荷できるし、以上であれば出荷をしないというように制御が可能です。ただ、100Bq/Kgを大幅に超えてしまった場合には短期間に下がる見込みもなく、廃棄されることもあるでしょうが、これは東電が補償すると言っています。


 このことは水産物であっても養殖される魚貝藻類については同じです。宮城県漁協食品流通構造改善促進機構のHPを見る限り、復帰しつつある養殖カキやノリ・ワカメはほとんど不検出かきわめて低レベルです。では、肉食性魚類である養殖ギンザケはどうなるのでしょうか。

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 昨年、一例だけギンザケで100Bq/Kgを超えたことがありましたが、これは津波で逃げ出して野生化したギンザケでした。餌となるイワシやイカナゴも事故から半年ほどはかなり汚染されていました。魚の場合、セシウムは餌由来で体内に取り込まれます。上記の厚労省食品流通構造改善促進機構のサイトを精査しますと、同じ渓流魚のヤマメでも、天然物は高い値が記録されるのに、養殖ヤマメは福島県内でも一例だけ35Bq/Kgがありますが、他は検出限界以下がほとんどとなってます。汚染されていない餌で育てれば、安全と言うことです。


 ギンザケも稚魚期は山間部の養魚場で育てられますが、宮城県漁協の検査ではやはり検出されていません。その後、海の生簀に収容されますが、汚染されていない餌料で育てれば問題ないということです。昨年は水揚げ間際で被災したギンザケ養殖ですが、一部では早くも復旧して養殖が再開されており、これからが水揚げの最盛期を迎えます。是非、ご利用願って復興支援にご協力下さい。

 

 き坊の棲みか「内部被曝」について


 内部被曝低線量被曝について、調べているうちにもの凄いサイトに行き着きました。まずは、その方の文章をそのままお借りしますのでご一読下さい。


『(略)もう一つ心配なことは、このまま原子力利用を続けた場合、重大事故の確率が確実に上がることである。チェルノブイリ級の原発事故が必ず起こると考えておいて間違いない。日本では大地震および原子炉の老朽化が殊に心配である。原子力関係の科学者・技術者の質の低下、意識の低下も心配である。』 4/26-2007



 これは、内部被爆に関する総説のような力作の一部分なのですが、これが書かれたのがなんと東日本大震災が起こる4年前なのです。ほぼ完全に言い当てています。どんな科学者だって占い師だって、今回の事故は想定外であったのに、この方は冷静に見極めています。どう見ても物理や放射化学の専門家のような書きぶりなのですが、サイト全体を閲覧しますと、どうもそうではないようです。


 そのサイトは、き坊の棲みかと申します。管理者は東京都府中市在住の大江希望氏。これだけの専門的な総説が書けるのですから、著名な科学者だろうと思い、ググってみたのですが、殆どこのサイト以外のヒットがありません。もしかすると、ハンドルネームかも知れないと思い始め、大江という姓は実名だとすると、あの反原発ノーベル賞文学者大江健三郎氏であろうと推測しました。このき坊の棲みかには、き坊のノートと言うコーナーがあり、内部被爆についての作品以外は小説的な文章が多いことからもそう思ったのです。 

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                               無断でお借りしました、すみません。

 でも、大江健三郎氏ほどの大御所のサイトであれば、どこかで見抜けるはずなのですが、どうも様子が違う。再度、大江希望氏で検索を続けますと、、、見つけました。小説家大江賢次氏の長男が大江希望氏であることが記載されていました。単に小説家の二世としてだけではなく、あまりに理科系の知識に長けています。物理、化学、生物に精通し、文章もメリハリが付いて理解しやすい。理科系の大学を出て新聞の論説員でもやっていたのでしょうか。でも、その形跡も見つかりません。まったく謎の多い方です。一体何者でしょう。

 
 き坊の棲みかでは、毎日欠かさず、き坊の近況というコーナーに日々の関心事を書き連ねておられます。3月31日の記事には基準値改正について次のようなコメントがありました。


 
 311原発事故後、国が行った様々な施策のうち国民全体に国への不信感と動揺を増した随一が放射線量の暫定規制値の設定である。(略) 食糧供給の安定のためというような理由を言うのは、人の命より社会の安定を重視する官僚の発想だ。混乱しようがパニックが生じようが、1mSv/年を守って集団移住を強制することが国の信頼をつなぐ唯一の方針であった。最低でも子供や妊婦はそうする、と言う方針をとるべきであった。



 反体制の香りもしますが、これには同感です。彼の力作 「内部被曝」についてには、知られざる低線量被爆とその影響が集めてあり、それらが事実なら子供妊婦はもっと手厚く保護されるべきでしょう。理科系の方なら、理解できるはずですので、是非、ご一読をお薦めします。

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2012/04/02(月) 05:00 | trackback(0) | comment(7)
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