赤い枸杞子(くこの実)を散らしたこの料理は何でしょう。華やかで正月向きの料理のようにも見えますが、これは韓国料理の参鶏湯です。本来は夏の疲労回復や滋養強壮のための料理ですから日本で言えば土用の鰻的な存在なんでしょうね。簡単な料理なのですが、丸鶏を使い、高価な高麗人参も使いますので、日本のご家庭では何のお祝いかイベントでもないと気軽に作れる料理とは言えませんね。
一昨年、訪韓した際に慶尚南道の晋州市で参鶏湯専門店に連れて行って頂き、本場の参鶏湯を堪能しました。その時の記事はこちらです。
韓国では1人前ずつ土鍋で供され、小ぶりな雛鶏を一人が一羽食べるのです。鶏を崩しながら食べ進みますと、高麗人参特有の香りが広がります。
帰国する間際に参鶏湯を日本でも作りたくなって、ソウルのロッテマートで参鶏湯用の漢方セットをたっぷり仕入れました。
このうち、幾つかがまだ残っており、消費期限も近づいてきましたので、久々に作ることに致しました。
この漢方ミックスは細めの高麗人参と乾燥棗(ナツメ)と謎の小袋で構成されます。
謎の小袋にも何かの漢方薬が密封されているようですが、抽出のお役目が終わってから開けてみましょう。
本日の主役はもちろん鶏です。近所の精肉店にお願いして、冷凍していない中抜き生丸鶏を取ってもらいました。
岩手県のいわいどりで有名な(株)オヤマさんの鶏でした。いわいどりはもちろん平飼いで、海藻粉末を与えるなど餌料に工夫されています。それにしても想定外にでかいです。1Kg強と思ってましたが、2Kgを超えています。鶏は尻と首の付け根にかなり脂が付いていますので丁寧に取り去って、水で腹腔内をよく洗っておきます。
丸鶏と漢方ミックスの他には、餅米とニンニクが不可欠です。味付けは天然塩だけです。
韓国では栗や松の実なども使われることがありました。
丸鶏の腹腔に洗って30分ほど置いた餅米と高麗人参、棗、ニンニクを詰めていきます。詰め終わりましたら、竹串で開口部を閉じておきます。
イカ飯と同じように詰め過ぎは禁物です。ただ、詰め過ぎてもイカ飯のように身が割れることはありませんが、餅米に水分が行き渡らなくなりますので、少し隙間があるようにします。2kg前後の鶏ですと1カップ半位は入ります。ニンニクは5片入れました。
水から炊いていきますが、謎の小袋は指示に従い、途中で加えます。
当初、土鍋で作る予定でしたが、鶏があまりに大きくて入らなかったので、我が家で一番大きな鍋を収納庫の奥から出してきました。本日はアルカリイオン水を4リットル使いました。
最初、強火にかけ、沸騰しましたら中火で鶏がコトコトする位に調整します。
アクと脂は小まめに取るのが美味しく作るコツです。
30分ほど炊きましたら、謎の小袋を加えてさらに1時間炊き続けます。
役目を果たした謎の小袋を開けてみてビックリ。何かの木片が入っていました。木片の他にも根っこや枝みたいな物もありますね。
そう言えば、釜山の市場でもこのような木片が売られていましたっけ。その時の記事はこちらです。
下の写真は焚き木のようにも見えますが、これらも生薬の一種なんでしょうね。
さて、1時間半も炊きますと肉も簡単にほぐれるようになります。ここで塩で薄く味を付けておきます。
韓国のように一人一羽というわけにも行きませんので、捌いて骨を取り除いてから食卓に運びます。
土鍋に移し替えて再度温めてから頂きます。
大勢で頂く場合は肉が均等に行き渡るよう、もう少し崩した方がよいでしょう。
枸杞子を飾って少し華やかさを出しました。これは私の即興です。
長葱は白髪にした方が見栄えは良いのですが、このような韓国式の粗微塵切りの方が食べやすいのです。
最初に鶏肉を塩や胡椒で適宜に調味しながら楽しみます。
韓流ではありませんが、柚子胡椒も合いますよ。鶏の水炊きにも使われますので当たり前ですね。^^
スープも卓上で好みに調味して味わいます。
このスープにご飯や好みの麺類を入れて食べるのもお楽しみです。茹で立ての生ラーメンも相性抜群ですよ。なにせ鶏の白湯スープのようなものですからね。
鶏を炊く料理は日本にもありますが、丸鶏で茹でて取り分けながら食べていくスタイルは中国や西洋の食文化を感じさせます。丸焼きをご馳走と感じるのは肉食文化圏の特徴なのでしょうか。日本でも魚の場合は、尾頭付きがご馳走の代名詞みたいになっていますが、せいぜいマダイのサイズ止まりですね。近年、普及してきたマグロの兜焼きは大きいですが、頭だけです。鶏についても日本料理はきっちり仕事をすることが原則ですので、丸焼きはまずありえないでしょう。成り立ちの異なる海外の食文化には新しい日本料理を創出するヒントが満載です。