狭いながらも我が家には様々な果樹が植えてあります。ビワの実もだいぶ膨らんできました。少し摘果してやれば大きな実になるのですが、土帰月来の単身赴任ですと、帰宅しても何かと慌ただしく、ゆっくり世話もしてあげられません。小粒だと皮を剥くのが面倒ですが、味には変わりありませんし。^^ ただ、熟し始めますと鳥や蟻との戦いが始まりますが、今年はウィークデイにすっかり攻略されそうです。(涙)
こちらは緑の実を付け始めたばかりのブルーベリーです。上は大粒で香り豊かな実がなるノーザンハイブッシュ系、下は収穫がやや遅くなりますが丈夫で収量の多いラビットアイ系です。
ラビットアイ系のブルーベリーはミカンなどの柑橘類が育つ温暖な気候が適しているとされていますが、宮城県でも十分育ちます。たぶん栽培の北限でしょうね。ブルーベリーは眼によいアントシアニンが豊富で、近年、ブームになっていますが、その効果を得ようとすると毎日、片手一杯くらい食べる必要があります。効能を期待するのであれば、市販の錠剤を服用した方が合理的です。私は朝露に濡れた紫の実をつまみ食いするのが楽しみで植えています。食べ切れない時は、冷凍庫でストックし、ある程度貯まったら、ジュースやピュレーにしています。
さて、こちらが本題の実山椒です。若葉の頃は身欠きニシンの山椒漬けで大活躍しましたが、今は強っぱしく(硬く)なった葉より、未熟な実が主役です。
この実も熟し過ぎますと、中の種が硬くなり歯に当たります。完熟しますと外皮が三つに割れて黒い種が見えるようになります。この時の外皮を粉にしたものが、鰻の蒲焼きに付き物の粉山椒です。因みに陶芸に詳しい方ならご存じでしょうが、割山椒という器がありますが、この山椒の実が熟して爆ぜた様相を表現したものです。
よく観察しますと、外皮には小さなディンプルが密にあって、ミカンの仲間であることがわかります。
この実を収穫する時は薄手のゴム手袋を使うことをお薦めします。私は素手で摘み取って、後で手をよく洗っていますが、迂闊にもその前に目を擦ったり、額の汗を拭ったりしますと、強烈なメントールのような刺激に見舞われます。詳しくは書けませんが男性の場合、途中で催して直に触れたりしますと、それはもう・・・。^^
この実山椒の痺れるような刺激も美味しさの一つです。この刺激をタレに移して料理に用います。
よく洗った実山椒を醤油、味醂、酒を水で倍に薄めた煮汁で炊いていきます。この痺れる味わいは中国の四川料理でよく見られます。最も有名なのは麻婆豆腐ですね。日本の家庭では唐辛子の辛みしか加えませんが、本場の麻婆豆腐は実山椒(花椒)の痺れが加わらないと出来損ないなのです。ちょうど酸味のない酢豚(古老肉)のように。ところで、麻婆豆腐の麻は痺れるような辛味を意味しており、麻酔に通じるとされています。
上記の煮汁でコトコト小一時間炊いていきます。吹きこぼれたり、焦げ付いたりしないように時々見回りましょう。
水で薄めた分が蒸発して半量になればよいのです。佃煮ではなく、調味液に実山椒の麻味を移すのが目的です。
こんな感じで出来上がりです。嘗めてみてジーンと麻味が舌を刺激すれば成功です。
粗熱が取れるまで蓋をして待ちましょう。
熱湯で滅菌した瓶に収容します。これだけあれば1年は楽しめます。
十分に冷めましたら冷蔵庫で保存します。これをご飯に数滴垂らしてパクつくのは夏の食欲のない時に最適です。
ご飯に垂らすだけではなく、冷や奴にも刺激が加わって美味しさがアップします。
豆腐と山椒の麻味の相性は麻婆豆腐で実証済みですね。
だし巻き卵には染めおろしとして添えます。この組合せは文化横丁のさかな亭さんで学びました。
ふんわり優しいだし巻きの味に甘辛麻味が加わって非日常的な美味しさに変身します。
このタレと出会いなのは脂の強い青魚かも知れません。
甘辛麻味が脂の強い魚と相性が良いのは、鰻の蒲焼きを思い浮かべれば納得できますね。
日本料理の中で麻味を用いることは、あまり多くありません。薬味としての粉山椒であれば、前出の鰻の蒲焼きを始め、煮穴子、鰤の照り焼き、柳川などに振り掛けて用いることがありますが、むしろ、七味唐辛子の構成員としての消費の方が圧倒的に多いでしょう。
日本では味の基本を酸味・甘味・塩味・苦味・旨味の五つとしていています。陰陽五行説に基づく中国では酸・苦・甘・辛・鹹を基本五味とし、インドのアーユルヴェーダでも甘・酸・塩・辛・苦・渋の6つのラサ(味覚)に分類するそうですが、いずれも痺れである麻味がカウントされることはないようです。
本来、辛味や麻味、これにメントールのような涼味は厳密には味細胞が受容する感覚ではないので、日本の五味が生理学的に合致した基本味なのですが、日本の料理や食品でも副味として辛味、渋味、涼味に麻味も大切な要素として親しまれてきてのは今さら言うまでもありません。
もし人間が狼少年のように野生で育ったら、腐敗や毒物の信号である酸味や苦味を一生避け続けたことでしょう。学習により遺伝子情報に反した味覚を楽しむのは人間特有な食生態なのです。