いま、静かなブームとなっているのが、タジン鍋。水や油を使わずに野菜や肉を調理しますので、栄養や風味が逃げず、しかもカロリーを低く抑えられるので女性に大変受けているようです。上の画像のようなタジン鍋の料理本もずいぶんで始めています。
そもそも、タジンはモロッコなどの北アフリカで用いられる土鍋のことで、転じてこれを用いた蒸し煮料理をタジンとも言うそうです。日本ではわかりやすい表現でタジン鍋と呼んでいますが、チゲ鍋と同じように鍋の意味が被ります。それはともかく、特徴的なのは鍋の形状で、特につまみの付いたとんがり帽子のような蓋が奇抜です。この先端には穴が開いて煙突構造になっているように思いがちですが、完全に閉じています。現在、フランスや日本で作られている鍋はかなりお洒落でスタイリッシュですが、モロッコのはもっと尖っていて土っぽい鍋です。
なぜ尖っているかですが、アフリカでは水が貴重でふんだんに使えない。そこで、野菜の水分だけで調理する技法が発達しました。ただ、通常の鍋だと水蒸気が逃げて、焦げ付いてしまいます。ではその タジンとんがり帽子に登ってきた水蒸気が壁面で冷やされ水に戻り急斜面を伝って鍋にすぐに戻るのです。従って、少ない水分でも無駄なく蒸し煮が可能になるのです。考えてありますね。つまり、あのとんがり帽子はラジエター(冷却器)の役目を果たすのです。
決して駄目出しするわけじゃありませんが、あのとんがり帽子は仕舞うのに面倒です。食卓の演出にはあの形もよいのですが、日常の食事には邪魔になりそうです。そもそも、上記の原理であれば、日本の家庭にある調理器具でもできるのではないでしょうか。要は水蒸気を逃がさないように短時間で水滴に戻せば良いだけですから・・・。
長くなりましたが、タジンを家庭の代用品でやってみましょう。水分が極端に少ない状況での加熱ですので、焦げ付きが一番心配です。やはり肉の厚い土鍋を使うのが正解でしょう。ただ、空焚きに近い状況では、いくら土鍋でも耐えることができるか不安です。火加減、材料の分量、加熱時間とのバランスを予め十分に把握しておく必要がありそうですが、まずはやってみてから考えてみましょう。
実験ですから、材料は冷蔵庫や野菜箱にあるものを適当に見繕います。
洋風の野菜の蒸し煮ですから、トマトが入ると美味しそうです。玉葱やキャベツも甘くてよさげですね。
こんな感じで土鍋いっぱい詰め込んでみました。
何だかサラダみたいですね。均等に加熱されるように、根菜類などの硬いものは薄く細く切って、下の方に沈めておきます。水分が出やすいようにごく少量の塩を振っておきました。
野菜だけでは淋しいので、スライスして塩胡椒で下味を付けた鶏の胸肉も加えます。
ヘルシーさが売りの鍋料理ですから、モモ肉じゃなくて胸肉です。ささやかな健康意識。^^
さて、タジンの特徴である蓋ですが、ご覧の通りのステンレスのボウルを使います。
幸運にもちょうど土鍋にぴったり被さるサイズのボールがありました。なんか太めのロボコップみたいな・・・。
ここからがロボコップ・タジンのアイデア公開です。
つまり、内部の水蒸気を直ちに水に戻すためには急速に冷やすのが一番です。金属は土鍋より熱伝導が良いので、ボウルの上に水に浸したタオルと保冷剤を乗せました。水滴が滑り落ちる斜面は緩慢ですが、がっちり冷やせば鍋に戻ってくれるでしょう。これで弱火にして30分ほど蒸していきます。途中、タオルが熱くなったら水に浸して冷やしてから乗せ直します。
この間につけダレを調整します。モロッコなどのタジンのタレは何種ものフルーツ類とスパイスで香り豊かですが、今日は冷蔵庫にあったサマーフレッシュをベースに2種類のタレを用意します。
サマーフレッシュはハッサクと夏ミカンをかけ合わせて作られた柑橘類ですが、夏ミカンやグレープフルーツのような苦みが少ないのできっと料理に合うでしょう。
韓国土産のサムジャン(緑の箱)をこの果汁でゆるく溶いていきます。
サムジャンはコチュジャンやテンジャン(韓国味噌)に生姜や大蒜、胡麻油や蜂蜜などを練り合わせた調味料で、肉や刺身をサンチュで巻いて食べる時に使います。サムジャンのサムは包むという意味です。重い思いをして韓国からコチュジャンとサムジャンの両方を持って帰ってきたのですが、なんとやまやさんで売っているではありませんか。
用意しました2種類のつけダレです。左はサマーフレッシュの果汁に醤油と青葱を加えたポン酢醤油、右はサムジャンを果汁で伸ばしたチョ・サムジャンです。
この柑橘果汁ベースのタレは蒸し野菜や鶏肉だけではなく、焼き肉をさっぱり食べるのに使えそうです。ちなみにチョって、韓国語で酢のことです。
20分ほど経過した時点で一旦蓋を開け、中の様子を見てみました。野菜から出た水分もかなり溜まって美味しそうに蒸されていますよ。
木ベラで底を掻いてみるとちょっと引っ掛かりがあります。いやぁ、危なかった、このまま加熱し続ければ、焦げとなって全体に臭いが回るところでした。ついでに上の方のまだ十分に加熱されていない野菜を下の方に沈めてやりました。
仕上げにもやしを加えて、もう少しだけ蒸します。
もやし以外でも熱の通りやすい葉菜類はあとから加えた方が良さそうです。
何とか完成しました勝手流のタジン鍋です。
ジャガイモにもすっかり火が通り、美味しそうな香りが立ち登ります。これは野菜がたっぷり食べられて確かにヘルシーですね。
さっそく、テーブルに運び、2種類のタレで味わってみます。
ヘルシーが売りのタジンですから、今日はお酒は呑みません。でも、白ワインがあったら、どんだけ佳いことやら・・・。^^
サマーフレッシュのポン酢醤油は柔らかな酸味で蒸し野菜によく合います。
大根おろしを加えても良いでしょうね。焼き魚にも使えそうです。
柑橘果汁入りのチョ・サムジャンは肉にもよく合います。
元々、焼き肉などを食べる際に使う合わせ調味料(ヤムニョン)ですから、当然ですね。
土鍋とボウルでトライしてみた勝手流のタジン鍋ですが、十分に美味しくできることが判明しました。土鍋いっぱいの蒸し野菜も二人でペロッと食べてしまいました。ただ、調理にはいくつかのポイントがあり、以下の点を注意しないと焦げてしまうかも知れません。
1.土鍋とぴったり被さるステンレスボールを蓋として用意すること。
2.硬い野菜は薄く、細く切って鍋底に沈めること。
3.ごく弱火で気長に蒸すこと。
4.蓋に乗せた濡れタオルは小まめに冷やすこと。
5.途中で蓋を取って、底を掻き回し、焦げを確認すること。
6.火の通りやすい野菜は最後に加えること。
以上で専用のタジンがなくても、それなりの蒸し野菜が出来ます。水を使わないのは北アフリカでの事情ですが、ここは日本ですから、焦げ付きが心配なら最初に白ワインか日本酒を半カップくらい加えておくと良いでしょう。いずれ、野菜からかなり水分が出て蒸し煮の状態になるのですから、呼び水くらい大したことはありません。
もし、異国情緒に浸りたい時はやはり専用のタジンをお求めになるのもよいでしょう。野菜は蒸されるとだいぶ縮みます。あまり小さな鍋を買いますと一人分のおかずにもならなくなるのでご注意下さい。各種のタジンを比較される場合はこちらを参考にして下さい。